借地借家法は不動産投資にどう影響するか
先日、愛知県で管理会社の従業員が自社で管理しているアパートに放火する事件が起きました。
立退きを求めての事件だったそうですが、ツイートしている通り従業員がやったことに驚きです。
この「立ち退きを求める」ですが、放火してしまうくらい難航するケースが多いようです。
今日お伝えする「借地借家法」という、借主に超有利な借主保護の法律があるせいで、ものすごく大変なのです。
もちろんやりはしませんが私がいま住んでいるマンションだって、10カ月くらいの滞納なら「俺は出て行かん!」と言っても、なんとか住み続けられてしまいます。
大家にとっては最悪な法律なのですが、どれだけ借主が保護されているかとわずかな対策もお伝えしていきます。
民法と借地借家法はどちらが優先される?
日本で生きている以上、適用される法律は民法ですよね。
民法にも賃貸借のルールは書かれています。
昨年から法改正されて、20年だった賃貸借の存続期間が50年に変わりました。
なので、例えばTSUTAYAでDVDなどを借りたときの賃貸借の期間は最長で50年になり、他のものを「貸し借りするとき」も同じで、あらゆるレンタルに適用されるのが民法です。
「原則50年以内なら期間は問わない」ルールになっているので、その気になれば「1時間だけ貸しますね」ということも民法に従うならOKになるわけですね。
しかし、「土地を買って建物を建てて貸したい」という場合、この民法のルールだけで足りると思いますか?
仮に「先祖代々の土地だから1年間だけ貸してあげるよ」なんて言われたら、建築も賃貸もなにもできませんよね。
そこで作られたのが借地借家法なのです。
不動産の賃貸借契約においては借地借家法は民法より優先されます。
借地借家法は「最低30年」
借地借家法の賃貸借期間は「最低でも30年」です。
民法とは対照的に「最低期間」が設けられているわけですね。
「30年以内で契約しても強制的に30年になりますよ」という土地の借主をとにかく保護している法律で、もちろん建物の賃貸借にも有効です。
一度入居した賃借人はこの法律に固く守られるのが日本のルールなのですが、愛知県でおきたアパート放火事件もこの借地借家法が絡んでいると予想されます。
立退き交渉でモメてどうにもならなくなった末の強行突破でしょう。
「大家は経済的に恵まれているのだから、社会的弱者である賃借人を保護しろ」というものなのです。
更新方法は3つ
この借地借家法の契約更新は3通りあります。
①合意更新
これは名前の通りで、お互いの合意のもと更新するものです。
賃借人はこれまで通り住むことができます。
②請求更新
ただ、例えば合意更新後に賃借人の素行が悪くなってきたらどうですか?
「あんな奴もう住まわせたくない!」と言っても、これが無理なのです。
借地借家法がここでも登場して、「賃借人をいじめるな、住みたいと言ってるんだから住まわせてやれ!」ということになります。(涙)
ポイントは「土地の上に建物が建っている」とき発動するもので、建物がある以上、賃貸人が拒否しても「賃借人が請求した時点」で契約が更新されてしまいます。
合意更新の存在理由がもはや分からなくなってきますが、借地借家法とはそういう法律なのです。
これは相当恐ろしいですよね。
③法廷更新
最後の法定更新もなかなかのものです。
例えば、長い間住んでいる賃借人が高齢になりボケてきているとします。
合意更新も請求更新もないので、「これでやっと建物が戻ってくる!」とあなたは喜んでいるとしましょう。
しかし、この時もやはり借地借家法が登場します(涙)
「建物が建っていて人が住んでるんだから契約解除はさせねーよ」ということになるのです。
これが最後の必殺技である法定更新ですが、めちゃくちゃな法律だと思います(笑)
いかに借地借家法が借主を優先しているかお分かり頂けたかと思います。
ちなみに借地借家法は「正当事由があれば更新拒絶しても良い」と一応はなっていますが、現実はほぼ無理です。
2年くらい滞納していたり、迷惑行為が犯罪レベルであれば別ですが簡単な理由では「正当事由」には当たらないという判例が出ています。
定期借家契約しかない
これに対抗する手段が「定期借家契約」で、借地借家法で固く守られている借主に対抗できる唯一の手段です。
契約期間が満了すると、賃貸借契約は強制的に終わらせることができます。
(ただし実際は立ち退きがスムーズにいかない等問題ありなケースが多いです)
普通の賃貸借契約では借主を保護するために、「正当事由がない」限りは契約更新をしなくてはいけないのですが、定期借家契約にはそんな縛りはありません。
これなら迷惑入居者がいた場合、「次の契約更新はしないよ」と言って終わりです。
私も過去数名、これで契約しています。
①契約期間をはっきり決める
②公正証書など契約書と別の書面で契約する
③「契約期間が終わったら強制終了です」と貸主が借主に説明して合意を得る
滞納など迷惑入居者には「ちゃんと済まないと次は住めなくなる」という恐怖心を煽るのが一番効きます。
滞納分の家賃まできれいに分割払いで契約できたケースもあったくらいです。
ちなみにモメたときですが、最高裁の判例によると「契約書とは別の書面で定期借家である旨の取り交わしがあったか」がポイントになるらしいので、必ず別の書面で取り交わしています。
管理のプロである管理会社の社員が放火までするほど厄介な借地借家法ですが、厄介な迷惑入居者ほどこの法律を盾にしてきます。
怪しい雰囲気を感じたら手を打てる段階で定期借家契約にした方が良いですね。